磐梯朝日国立公園内の磐梯吾妻スカイライン、レークライン、ゴールドラインは3道ワンセット通行で福島飯坂側から猪苗代湖に降りる山岳道である。福島県下で著名な紅葉路だが、3道とも今年7月25日付でこれまでの有料道から無料道に移行した。合計3230円が節約できる。
同スカイラインは平均標高1350㍍。大きな弧を描きながら同1500㍍強の浄土平に登り詰めていく道は浄土平レストハウス手前が灰色がかった地肌のごつごつした岩が転がる雄大なガレ場景観で、風向きによってはキャビン内に異臭が入り込んでくる。
そう、亜硫酸ガスがたちこめているのである。同ガスの影響で樹木が育ちにくく、荒れ果てたようなむき出しの山肌になっているのだ。道路脇には同ガス注意喚起看板が立てられているうえ、路肩白線部にはガレ場から採取したであろう頭大の岩を並べて駐車しにくいよう安全策がとられている。
同レストハウス手前はすり鉢状の地形のなかを大きなカーブに沿って登坂してくる車を荒涼としたパノラマ風景のなかで捉えるフォトポイントのひとつ。レストハウスのコーヒーは200円。観光地は普通高いのだが、ここのコーヒーは少し苦いものの、ドトールと同値であった。
11月6日という冬季閉鎖期間の始まる1週間前に走行したのだが、浄土平には大陽のあたりにくい山肌に冠雪したとみられる雪の帯が幾筋もみられ、日陰部では高地ゆえのふきさらしの風にさらされ寒かった。ただ、福島気象台は同日、磐梯山冠雪情報をだしておらず、厚い霜が降りていたのかもしれない。
浄土平よりも福島飯坂寄りにあるつばくろ谷というのもフォトポイントである。山からしみ出る水が何万年、あるいは何十万年かけて大地を削り取った80㍍におよぶV字谷にかかる赤色の不動沢橋がそれ。同橋は老朽化にともないに架け替えられているが、旧橋の橋台が残され、その周囲が駐車場になっており、カメラを現橋に向けることができる。
同スカイラインは昭和34年に竣工した。現天皇が皇太子時代にご成婚式をあげたり、少年サンデーやマガジンが創刊された年であり、日本の本格的モータリゼーションの先駆けとなった日産サニーが発売される7年前であることを考えると、この時代に片側1車線の立派な鋪装道路を磐梯の山岳地帯に建設したことは来るべき自動車時代を予見した慧眼の持ち主が福島県にいたということを示すものである。
レークラインは秋元、小野沢、桧原の各湖をところどころ望める。道路の両側は葉を落としつつあるカラマツ林で樹間の間を縫って走る印象が強い。むろん道路はスカイライン同様にフラット2車線だが、交通量は比較的多い。
小野沢湖畔が望める砂利敷駐車場でコンビニ調達の遅い朝食兼昼食を摂った。車を止めていると、湖がみえるせいなのか、つられてしまうのか観光客が次々と車を止めて深緑色の湖をみやっている。湖遠方には防風囲いを施した小さな舟が浮かんでいる。解禁されたわかさぎ釣りの舟である。
ゴールドラインに向けて出発する。ステアリングコラム脇のダッシュボード上にある直径3㌢ほどの銀色のボタンを押す。セルの回る音とほぼ同時に、ひと声ヴァーンとあたりの澄んだ湖畔の空気を振るわせAMGオリジナルのV8が「行くぞ」とばかりに4本だしマフラーを通じて鼓動をはじめる。
深夜の住宅街でエンジンをかけるのが気が引ける音量なのだが、この車の魅力のひとつでもある。
ゴールドラインはミドルコーナーが多いワインディングロードである。磐梯山を正面に見据える場所やスキー場のリフト架線下を通過したり、ガスってはいたが猪苗代湖の一部も概観することができる。磐梯山は紅葉の終わりを迎えつつあるようだった。
スカイラインと比べると、レーク、ゴールドの両道はダイナミックな景観という点ではおよばない。
ゴールドラインをさらに下っていけば猪苗代湖に到達する。しかし、同ライン終点先の蔵見学のできる地元酒造会社の駐車場を借りてUターンし再び同ラインを走ってK2の一部となっているかつての有料道西吾妻スカイバレーにノーズを向けた。
K2(米沢猪苗代線)は途中桧原湖右岸に沿って米沢まで北上していくルート。桧原湖北端の早稲沢から白布峠を経て白布温泉までが地図で見てもわかる通り道路が団子を串刺ししたような形をしていてタイトコーナー連続し、同スカイバレーと呼ばれている。
タイトコーナーは右に左にステアリングを切るのが忙しいものの、C63は大排気量エンジンゆえ豊かなトルクに支えられコンフォートレンジのままでぐいぐいクルマを引っ張り上げる。3000回転を越えるとスポーツ系ツインカム独特の咆哮が耳に心地よく響く。標高のある白布峠付近、葉を落としたダケカンバが初冬の趣で迎えてくれた。
米沢から国道13号経由し、万世町からぶどうまつたけラインと称する広域農道へ。路面がつぎはぎだらけの補修跡が残る箇所が少なくなく、クルマが揺さぶられ快適とは言いかねるが、交通量が圧倒的に少ないのが取り柄である。まつたけはともかくぶどう栽培棚をところどころ見ることができるものの、シーズンオフとあって晩秋は寂しい田舎道の雰囲気だ。
ぶどうまつたけラインから高畠町でR399に入路し、帰還路である東北道福島飯坂ICを目指す。R399は国道とはいえ狭い1車線の山道でうっそうとした杉林のなかのつづら折れヘアピンを通って鳩峰峠までの間、高度を上げていく。
鳩峰峠周辺道は落葉が左右の路肩を埋め、道がさらに狭まった感じになった。しかし、モミジらしき黄色に色づいた紅葉が道の両側から覆い被さる。午後3時頃だが、冬間近の西に傾いた大陽の斜光が木々の間から差し込み、輝く黄金のトンネルを通るがごとくの光景をみせる。
今回のルートの大半で最盛期は過ぎたとはいえ、紅葉がみられたが、R399の紅葉グラデーションが最も見栄えがしたようにおもう。
同峠から先は道が広がりフラットな路面になる。茂庭っ湖というおもしろい名前の湖が近づいてきたのである。ダム湖に沿う道路は完璧片側1車線広幅道で、これまでの山道とは一変する。摺上川ダム建設によって付け替えられた新道である。
ロックフィールド式の同ダムの竣工は、平成17年で比較的最近のこと。ダム管理棟に寄れば、ダムの目的や規模を模型展示などを通じて知ることができる。また、ダムサイズなどを記載したダムカード(名刺大)を案内員に申し出れば無料でもらえる。同ダムは台風により降雨量が多く、当日の貯水率は85%にもなり、満々と水を蓄えていた。
無料化された磐梯吾妻スカイラインなど3道には東北道福島飯坂ICから入るのが常道なのだろうが、今回、それよりも3つばかり東京寄りの本宮ICで下車した。安達太良SA近くのK146からK380を経て岳温泉に抜ける山道を試したかったからである。
まだ覚めやらぬ集落を抜けると、田畑は霜で真っ白。食べる人もなく葉を落とした柿がたわわに実を付けていた。K380は路面はフラットだが不用意にスロットル開けると降り積もった落ち葉に脚をすくわれ、ESPのお世話になる。めずらしく推測5㌔の未舗装部分が残っていた。
グラベルと言っても硬く締まった路面で、乗用車でも通行には支障はない。そのグラベルをゆっくりとたどっていくと、突然、視界が開ける。山の斜面が牧草地になっている岳グリーン牧場の脇を通過しているからである。K380はほぼ1車線の道で対向車がくれば、すれ違いに気を使う。
しかし、「フォレストパークあだたら」という、県民の森近辺にくると道幅は2車線道に急に変わる。K380の前身は林道で、同パークの開設にともなって県道に格上げされたらしい。
同パークへは二本松からR459でいける。このため、K380全線を走るひとは恐らく稀で、利用度の低さが今なお未舗装路を残している理由だろう。林道すら舗装されているケースが多くなっている今日、県道で未舗装というのは珍しく、オフロードライダー向きの道である。
■全行程(GPS):約830km/最高高度(GPS):約1,630m
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