2015年8月29日

ESCが広げた世界

 “Electronic Stability Control”、略称“ESC”。おんなじ”ESC”でもキーボードの左上にあるのは”Escape”の略。お間違いなきよう(笑)


 商標もあり呼称統一されていませんが、Mercedesだと”ESP”、BMWだと”DSC”と呼ばれるアクティブ・セーフティ・システム。Mercedesの協力を得、BOSHが開発しました。簡単な説明はこちらを参照ください。

 ご存知のとおり、ESCはABSとTCSを統合し危険な横滑りを未然に防ぎ安全な走行を補助するシステムです。そのESC、話題のプリクラッシュセーフティ、「衝突回避・被害低減ブレーキ」わかりやすい言葉で言うなら「自動ブレーキ」に深く関わっています。それにしても国土交通省のお役人さんが推奨する名称ってわかりにくいよねぇ(>_<)

 自動ブレーキの先駆けと言えばEyeSight(アイサイト)。一時期、自動ブレーキの代名詞と称えられたけど、ここにきて各社から続々と自動ブレーキシステムがリリースされその先進性、優位性が薄れてる。

 チョッと脇道にそれますが、日本のプリクラッシュセーフティについて書いておきますね。日本で最初にブレーキ操作にまで介入したプリクラッシュ・セーフティ・システムは2003年にリリースされたホンダのインスパイア。ただし完全に停止するまでの制御はしなかった。完全停止までシステム制御したのは2008年のボルボが最初。技術革新の早い現代、安全に寄与する革新的な技術が2003年に実用化されていたのに、なぜ進化もせず放置されたのだろう…。

 そこには国土交通省の指導があったと言う。「脇見運転を助長する」。いかにもお役人らしい「ひとこと」で闇に葬り去られたらしい!。ウソかホントか知りませんが、「さもありなん!」だよね。

 ICT分野でもジャパン・スタンダードとグローバル・スタンダードが噛み合わず、優れた技術や投資が無駄になる例って多いよね。最近ぢゃ携帯が使用する電波の再編成。世界や将来を見極めるリテラシーあれば無駄な投資しなくても済んだんぢゃないかと思う。

 そのお役人も5年を経てボルボという外圧に負けたのか、完全停止まで制御するシステムをやっと認可した。そして2010年、EyeSight(アイサイト)がリリース、わかりやすい宣伝も手伝ってプリクラッシュ・セーフティ・システムが脚光を浴びるきっかけになったんだね。


 もとい!
 雨後のタケノコのように自動ブレーキ搭載車が増えCM枠を賑わすようになったのは市場ウォンツだけぢゃない。2014年10月、軽自動車の継続生産車を除きESC搭載が義務づけられました。自動ブレーキシステムはESC技術の延長にあり、ESCシステムに障害物センサー情報を付加し、高度な協調制御をすることによりプリクラッシュ・セーフティ・システムへと次元を超えレベルアップします。

 アクセルとブレーキ踏みまちがえの飛び出しだって、車両前後の障害物情報を解析しスロットルを絞りブレーキ掛ければ対応できる。障害物センサーに車線認識情報を追加し内側後輪をチョイと”つまめ”ば車線逸脱を防げる。それって自動運転のプロローグぢゃないか。

 現実の制御はそんな簡単ぢゃありませんが、もうおわかりでしょう!
 障害物センシング技術の進歩や大量生産による価格低減要因もありますが、ESCが義務化されたお陰で自動ブレーキシステムを安価に提供できるようになったと言っても過言ぢゃない。

 消費者も安いことや現実と乖離した燃費の善し悪しに価値を見いだすんぢゃなく、安全装備や走る、曲がる、止まる。クルマの基本を語れる賢い消費者になって欲しいよね。乗車定員分のシートベルトが装備されないとか、法整備されるまでESCがオプション装備だったなんて論外と言うより時代錯誤でしょ(>_<)

 つけ加えるなら最新のハイパフォーマンスカー、ESCの得意技を積極的に利用し、ターン内側駆動輪を”つまんで”回頭性上げトラクション抜けないようにしたり、SUVなら駆動輪浮いてトラクション抜けるシチュエーションで駆動輪を”つまみ”LSD代わりにしてる。横滑り防止目的で開発されたESC、すんごい勢いで深化してる。

 クルマは恐ろしいほどのスピードで電子武装され黒子のごとくヒトの操作に介入し始めた。アクセルに始まりブレーキ、ステアリング、動力伝達系までひっくるめ、統合協調制御するようになった。EPS(電動パワステ)は、エコという範疇をはなれ統合制御に不可欠な必須アイテムです。時代はIoT、いづれコネクテッド・カーとなり前後のクルマともヒトの棲む社会とも繋がるようになるでしょう。そしてその先にあるのが、完全な自動運転なんだね。ヒューマンエラーを防ぐ技術が発展すると自動運転が見えてくる。

 自動車産業は新しい次元をむかえ、テスラやGoogleカーのようにソフトウエアとICT技術の集大成になりつつある。メガサプライヤー台頭とともにドラスティックな攻防も始まり、ICT産業のように水平分業の道を歩んで行くのかチョッと心配。それについ先日、クライスラーがリコールしたのようにハッキングされるリスクも心配。安全を高める自動運転車が走る凶器になったんぢゃ洒落にならないぢゃないか。

 新しい技術って、最初はその機能が優先され感性はあとまわし。ABS黎明期、介在するシステムがリニアリティを阻害し、すんごく頼りないフィールのブレーキが多かった。操作するのはヒトなんだからフィールやリニアリティはすんごく重要、頼りないフィールぢゃ正しい情報が伝わらないぢゃないか。

 Once upon a time…、
 「Fly by Wire」が実用化され、いつかはクルマも「Drive by Wire」になるんだろうなぁ…。そう思っていたけど、その道のりは予想以上に早そうだね。


 熟年男子にとってクルマは「Fun to Drive」、「Be a driver」、アクセルでエンジンの息吹を感じブレーキで重心移動、ステアリングから伝わるインフォメーションで路面とのコンタクトを確認する。ワインディングを走るだけぢゃなく、五感でクルマと対話するのが愉しいんだけどなぁ(^^)